ロンドン・オーディション奮闘記

ダンススタジオで開脚ジャンプをする天羽 Blog

俳優として仕事を得るには、選ばれなくてはならない。

仕事として続けてゆくにあたって、かなりの負担だと思います。日本でもたくさんの、そう、本当に、数多のオーディションを受けていました。ロンドンで僕は完全なる無名で、演劇学校すら出ていないので、初心に返って、オーディションに応募しまくっています。

日本では事務所経由でオーディションを受けることが主流ですが、イギリスではSpotlight、アメリカではactors accessBackstageなどのオーディションサイトに登録して応募することも多いです。他にも、Facebookのオーディション情報グループ(定期的に「僕はLA在住で~映画出たくて~(自撮り)」みたいな、それで仕事貰えるなら、もうゲットできてるんじゃ…?みたいな投稿がある)や、Instagramでの#opencall タグを注視、各プロダクションのサイトや劇場の募集要項を確認みたいな方法もありますし、やっぱりエージェント(芸能事務所のこと)にしか知らされないオーディションもあります。そんな中で最近受けたオーディションの話を。

クルーズのダンサー

オーディション終わりで汗だくの人
オーディション終わりで汗だくの人

クルーズというのは豪華客船のことで、大抵船内にホールや劇場があり、船上にいるので家賃を払わず、ダンサーやシンガーとしての経験を積めるメジャーな登竜門です。何故か書類が通ったので、UK到着3日目、時差ボケに悩まされながら受けたオーディション。キャスティングプロデューサーから、プロデューサーや振付師のにこやかな紹介があって、すぐにダンスの審査へ。その時点で衝撃を受けたのは、30数名のダンサーの中で、僕だけがアジア人だったこと。恐らくラテン系のダンサーも1人しかいませんでした。あくまでも推測に過ぎないですし、外見的特徴から人種を判断するのは差別の一歩目だとも思っているのですが、ロンドンの広告やドラマには、多様性のあるキャスティングを多く見かけたので、これも一つの側面なのかと驚きました。振り付けは割と簡単だったのですが、正確に振付を踊るというよりパッションに重きを置いているようで、割とバラバラで個性的でした。僕自身もしばらく踊っていなかったので、立派にバラバラの一員を担っておりました。

一通り踊ったら廊下で10分くらい待ち、その場で名前を呼ばれた者だけが次の審査に進めるのですが、私の名前は呼ばれませんでした。残った人をチェックしていましたが、ダンスの技術が抜きん出ていた人というよりは、背が高い”所謂(typicalと言いたい)ハンサム”ばかり残っていて、ちょっと腑に落ちないな。と思いつつ会場を後に。でも、久しぶりに踊れて気持ちよかった。

船上のミュージカル

ガンを乗り越え結婚式を挙げるゲイカップルの広告
こんな広告はいくらでも見かける

次に書類審査が通ったのは、大手クルーズで上演されるミュージカルのアンサンブル。今度はオーディションを受けに行く前に、ビデオ審査があったので、指定された振付2つと課題曲を撮影して送付。毎度思うのですが、撮影する時のスタジオ代とかってなんなんでしょう。「金銭的不安がない人しか俳優になれないの?」「そうだよ!」と返答されている気分。でも審査側からしたら会場代って大きいだろうし、じっくり判断できるし…でも撮影環境の違いにどうしてもバイアスが…と、アレコレ思いつつスタジオを予約し、ビデオを送ったら本選へ。

1週間後にオーディション会場へ行ったら、溢れんばかりの人。会場には200人くらい居たと思います。え、もう少しビデオオーディションで絞ろうよ。オーディション会場までの交通費もあるんだしさ(電車で3時間かけて来てるみたいな話も聞きました)

まずは、バレエのアクロスフロアをぞろぞろと踊る。ひとりひとり撮影されるのですが、ビデオがうまく回らなかったようで、僕だけ2回挑戦させてもらい、2回目はピルエットが調子よく4回転決まってラッキーでした。数じゃない…数じゃないんだけどさ。バレエって正解がシンプルで好き。その後60人に絞られて、コンテンポラリーダンス、ジャズダンスの審査に移る。そしてまた何故か、有色人種(People of Color)は、僕と、男性アンサンブル枠で受けていたイーストアジア系の方しか居ませんでした。たまたま偶然が重なっただけかもしれないので、早合点しないようにしていますが、豪華客船という中流~富裕層向けのショウビズであることなど、通念含めて何かしらの暗黙があるのかもしれない。でもHPにはインクルーシブな会社と大々的に宣伝していたりしたんだけどな…と、そんなことばかり考えていたので、居心地悪く感じたりもしていました。

最後のダンス審査で、あー振付間違えたなとか思いつつ、なんと名前が呼ばれ、最終歌唱審査の20人に選抜。控室に戻ると、みんながいそいそとドレスアップを始める。歌える楽譜を持ってきてねという指示はあったのですが、どうやら歌の審査の時は、ダンスの時とは違う役の雰囲気に合った・自分の違う一面を見せることができる服。で受けるのが通例らしい。知らなかったし、寒いからジャージで来ちゃったよ!

そしてみんな、得意な曲を4~5曲ファイリングしていて“16-Bar”と呼ばれる、一番歌唱力を表せる16小節を用意していました。これからもミュージカルのオーディションを受けていくなら、雰囲気や音域の異なる曲を準備して16-Bar対策するのが、こっちのオーディション文化か。と面白かったです。日本だと課題曲があるか、1番くらいは歌い切らせてくれることが多いイメージ。でも16小節も聞けば分かるもんな。

生ピアノで歌える~とドキドキしながら、歌い切って終了。実はその後も候補に残ったのですが、契約が1年間と長かったことと、折角UKビザあるのに海の上に?舞台も見れなくなっちゃう?家賃は無料だけど船上のWi-Fi使用料金そんなに高いの?毎日ジムに行くのが条件で、定期的に体型を測定されるだと?みたいなことが今の自分とは噛み合わず辞退しました。いつかこれを後悔するかもしれないけど、このオーディションを通過できたのは、とても自信になりました。船はさ、好きだけど、やっぱり陸の仕事がいいな…!アリエルの気持ちが更に分かってしまった。

遂に陸のミュージカル

楽屋口の写真
あこがれだったStage Door(楽屋口)案外すぐに入れてしまった

一度キャッツの書類審査が通って以降(スケジュールが合わず参加できなかった)ミュージカルの書類が通らなかったのでおずおずと応募を続けていたのですが、遂にお呼びがかかる。しかも劇場内のリハーサルスタジオでのオーディション!楽屋口から入場できるじゃん!と、喜んで出掛けました。

同じくプロデューサーの挨拶から始まったのですが、他のオーディションよりずっと、目の前にいる僕たちにコミットしてくれている気がしました。特に振付師の女性が、個人の良さを引き出せるように、振付中にもそれぞれにアドバイスをしていたり、本審査の時に僕含め全員が床が滑って転んでしまった回があったのですが、すぐに止めてモップ掛けをして、セカンドチャンスをくれたり。とても良い空気だった。5種類のダンス審査があり、振付を覚えるのがあまり得意ではない僕はなかなかに苦労しながら挑みましたが、最終ダンス審査で落選してしまいました。しかし、本当に周りのダンサーたちのダイナミクスさやパワフルさが素晴らしくて「いやいや、この役は君たちがやってくれよ。僕は観てたい!」とすら思っていたので割と満足。それこそ「この後ソワレの公演があって」みたいな人たちも居たので、肩を並べてオーディションを受けられたことも誇らしい。

この作品は元々、アフリカ系やアジアン系のキャストを起用してきた歴史もあり、オーディション会場にも色んな国・ルーツのダンサーが集まっていました。キャスティングの多様性は、社会的なイメージを変える力があり、選択肢や野心、平等なチャンスを得るために大事だと思っています。もちろんそれが、僕が役をゲットできるかどうかの未来にも関わっているという実利的な希望も含めて。著名な映画の多様性を調査した統計では「スクリーンに登場するアジア系の割合は、 2007年の3.4%から、2022年には15.9%へと上昇した」という研究結果もあり、少なくともハリウッドは変化しつつあり、ステレオタイプな性別描写の一部はイギリスの広告基準協議会によって禁止されています。だからこそ、流石にその基準があるであろうカンパニーのオーディションに参加できたのは幸せでした。

選ぶ側

本当に、ミュージカルの役をゲットしたいなら、ダンスや英語での歌唱にもっと打ち込んで、死ぬ気で一つ一つのチャンスを取りに行ってやっとスタートラインに立てるくらいだと思うのですが、どうしても今は「こんなに素晴らしいダンサーがいるなら、彼らを演出できるようになりたい」という思いも強くて、ちょっと宙ぶらりんです。いや勿論、仕事をゲットできたら素晴らしい経験になるし、お給料もバイトより良いし、アーティストビザを申請できるきっかけになったりするとも思うので、是非参加したい。という願いもあるんです。だけど、宙ぶらりんだからこそ、オーディションの結果に一喜一憂するというよりは、異なる視点での発見があったりするので、それもまた貴重だなと。これから受けたいダンスのクラスやボイトレの先生もいるので、技術も磨きつつ、オファーを断った歴史を胸に「僕だって選ぶ側なんだからね」という精神を忘れずに励んでいきたいと思います。

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