天羽尚吾のジェンダーについて

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6月は「水無月」とも呼ばれます。また、1969年6月27日(28日未明)にニューヨークで起こったストーンウォールの反乱をきっかけに、LGBTQ+の人々の平等な権利や文化を祝福し、今も続く差別への認識を高める「プライドマンス」としても知られています。

小学生のころから「男か女かどっちだよ」と聞かれ、「天羽尚吾」と検索すると「性別」がサジェストされる僕は、自分のジェンダーについては、語る言葉がみつかるまで、友人に話せるようになるまで、ロンドンで羽を伸ばすまで、演出家と名乗ってみるまでは、公にしないつもりでした。

プライドマンスを迎えるたび、自分にも何かできないかと考えることが多かったのですが、今年は小さくてもなにかのアクションを起こそうと思い、この記事を温めていました。語るようなつもりで書きますので、ちょっと一息つきながら読んでいただけたら嬉しいです。忘れていたお茶を淹れてみたりとか、狭いけど落ち着くどこかに挟まりながらとか。

天羽尚吾は男性です

Photographer:宮本七生
Hair and makeup:成谷充未
Stylist:Ryouske Ootomo


「え、じゃあ、カミングアウトも何もないじゃん」と思われるかもしれないのですが、「男性」は、今まで僕が俳優として選択してきた、そして初対面のかたに対する性表現(Gender Expression)のあり方です。

創作ではなく、仕事の場、病院やら飛行機のような公共の場で、男性として扱われることに、今のところ戸惑いは無いし、話が早いので、一先ず「男性」を名乗ることも多いです。でもこれは、というか、この日記すべてが、「僕は」という話であり、日常でこそ性自認と社会的な対応の一致が重要な場合もあるので、「天羽が我慢できるならみんな我慢しろよ」なんて、間違っても思わないでください。

先日、30歳になりました。「年齢を重ねるごとに自由になっている気がする」と呟こうとして、その感覚は、俳優としてのキャリアを積むことができた経験と、日常生活で男性としての特権を享受していることに由来するのではないかと気づき、反省しました。自分の特権を自覚すること、そして得てしまったパワーを使って、できる限りリソースの少ないコミュニティに貢献しようと暮らしているつもりですが、それもまた険しい道のりですね。

天羽尚吾はノンバイナリーです

Model: Shogo Amo
Photographer: Kurose Yuri
Hair & makeup: Karoline
Photo Assistant: 884


今、自分に近い言葉を選ぶとするなら「ノンバイナリー(二元的な「男性」「女性」というジェンダーにあてはまらない、あてはめたくない状態)」だと思います。UKで生活をしていると、行政の書類や契約書に「SEX(性別)欄」と「GENDER(ジェンダー)欄」があり、後者ではノンバイナリーを選ぶことが多いです。ただ、なんだかこの辺りの話になると、友達と映画を観た後、コーヒー片手にたらたらと喋る必要があるような感覚的な話にもなってきたりして。

好きな人、信頼している人からの「尚吾くん」「天羽さん」「あもちゃん」、どれもが心地よいように、僕のジェンダーの捉えられ方もそれぞれに一任したいとすら思います。けれども、それを野ざらしに出来るほど、社会はまだ安全な環境ではないと感じるので、その理想は次の世代で求めた人が実現できればいいかなと考えるようになりました。そう、これは過程のひとつ。

だから、私が「ノンバイナリーです」という時は
「男性でも女性でもないジェンダーがある」を示す活動の一環だったり
「どのような性別でもキャスティングしてくれ」という意思表示だったり
「この言葉も分からないようだったら不用意なことは言わないでくれ」と一線を引くためだったり
「最低限ノンバイナリーという意味を知っている人間ではありますので、好む三人称がありましたら気軽に教えてくださいね~」という小さなレインボーフラッグを掲げるものだったり、いろいろなメッセージが込められています。

実はまだしっくりする言葉ではないのですが、先日受けたオーディションで、好きな食べ物と自分の代名詞を自己紹介する際に「He/Theyです」と言ってみたとき、かなり憑き物が取れた感覚がありました。個人的にはマジで「Shogo/Amo」とかどうでしょうか…!!と思ったりもするけど、ちょっとまだトリッキーすぎる。きっとこれから代名詞をめぐる文化も変わり続けると思うので楽しみにしていたいです。

天羽尚吾はトランス女性です

Photographer: 金山フヒト


※この段落はかなり自分の中でも迷いながら推敲しましたが、トランスジェンダーの誤解を招いたり差別に加担するような表現が見受けられましたらコンタクトよりご連絡をいただけますと幸いです。傷つけるため、議論をややこしくするための質問や意見にはお答えしません。

思春期から20代前半までは、特に性別違和(出生時に割り当てられた性別と自認する性別が一致していないという持続的な感覚)が強くて、かなり苦しみました。自分の意に反して身体の二次性徴が進む際や、男女で分かれるときに男性側に押し込められること。その積み重ねによって諦め、逃げた道も少なくありません。通った私服高校は幸いにも、自意識と迷いが爆発した僕の表現を肯定的に面白がって迎えてくれる場所だったので、かなり健康かつ快適に過ごすことができました。たくさんの黒歴史も生みましたが、今も交流の続く友人たちとも出会いました。

俳優として働き始めてからは、また苦戦の日々が始まりました。女性として活動したいと思ったとしても、芸能界の過酷なルッキズムにひるみましたし、そもそも仕事を獲得することに必死だったので、性自認を隅に追いやったりもしていました。

「サラ・ベルナール」~命が命を生む時~ キャスト集合写真


いわゆる女装もいっぱいしました。そのなかでも、「サラ・ベルナール」という舞台で水夏希さん演じるサラの付き人、ルイーズという女性を演じられたのは個人的に大切な時間でした。僕が女性を演じることに誰も何の迷いがないようなカンパニーの雰囲気で、居心地が良かった。

性自認(Gender Identity)を考えるときに「どんな性別集団に属していると安心を感じるか」みたいな指標がありますが、自分にとってそれは確実に「強かに生きようとする女性たち」だと感じます。もちろん「ちょっと変わった男性の天羽尚吾」をもてなしてくれる、可愛がって気を使ってくれている人たちと捉えることもできるのですが、彼女たちと一緒にいると、とにかく肩の力を抜いてリラックスできることが多いです。でも最近は、男性やクィアの友達も増えたし、彼らとも楽しく時間を過ごすことができるので、「要は人によるんでしょ」とも言えるかもしれませんが、そんな簡単な話ではない。

ちなみに、思春期の一時的な迷いだったとするつもりは全くなくて、もっと自分の人生の中で性自認や性表現の優先度が高く、かつ、社会が安心・安全な環境なら、「女性です」と表現しているかもしれません。しかし、今はそう感じられないので、私は私なりのやり方で、女性やトランスジェンダー、LGBTQ+、社会的マイノリティへの平等な権利・機会を実現するため、学び、尽力しようとする道を選びました。

天羽尚吾は

Photographer: kazuto yamagishi 
Hair & makeup: 成谷充未 
Stylist: Kumiko Sueyoshi


なんなんでしょうね。ここまで来てくれた人には「天羽尚吾は天羽尚吾だよ」と言えるかもしれないのですが、そこまでの過程がめちゃめちゃ大事なので、しばらくは色んなジャブを入れ続ける生活を送ることでしょう。

でもどれも嘘ではない。そしてゼロイチではない、立体的で流動的なグラデーションが天羽のジェンダーを反射します。

初対面の人と染色体の数を確認しあったり、性器を見せ合ったりすることが少ないように「生まれた時に割り当てられた性」を検証することって、実はそんなに無いじゃないですか。だから人はそれぞれ色んな形で自分のジェンダーを表現しています。特に僕の本拠地は演劇で、突然目の前がサバンナになったり、近未来になったり、ゲーム配信者の家になったりする想像力を持ち寄る場所です。

役者を軸に活動していたときは、自分の性自認や性表現によって、役の解釈に影響を及ぼしたくないとか、ノンバイナリーを名乗ることによってスーツを着た男性のCMが決まらなくなったらどうしよう。と、公にする迷いがありました。けれど、創作を一本の軸にしている今、ジェンダーに対する根本的な考えを示しておくのは僕なりに筋が通るなと思ったので書いてみました。

僕がどういったジェンダーであったとしても、当事者のすべての想いを汲むことや代弁をできるわけではないし、抜けのない完璧な作品が作れるわけでもない。

その現実を噛み締め、学び続けながら、知人の、女の子の服を着るのが好きだという子どもから相談を受けたときに「うんうん」って聞きながら、彼ら/彼女らの未来のために何ができるか、一歩ずつ行動を積み重ねていきたいなと6月を祝福するのでありました。

参考リンク

Tinder | Let’s Talk Gender : スタイリッシュに分かりやすく、ジェンダーの基礎がまとまっています

はじめてのトランスジェンダー│トランスアライにできること : 遠藤まめたさんの編集するサイトです。Q&Aも充実

トランスジェンダー問題——議論は正義のために : より知識を深めたいときに。高井ゆと里さんによる指摘にも注目

愛と差別と友情とLGBTQ+ 言葉で闘うアメリカの記録と内在する私たちの正体:表現の移ろいや冒頭のストーンウォールの反乱などがジャーナリストの北丸さんの視点から語られます。

謝辞

平野鈴
久保豊

この記事の推敲にご協力いただきましたことに感謝申し上げます。謝礼を申し出たところ、お二方とも、まるで示し合わせたかのように、その分を募金やクィアの子どもたちの支援に充てることをご提案くださいました。そのご意向に従い、イギリス北部を中心にLGBTQ+の子どもや青少年をサポートするThe Proud Trustと、LGBTQI+への包括的なケアを掲げている国境なき医師団にそれぞれ寄付いたしました。