悩みへの身支度

何が僕の専門たるのか。
やっとここ数年で考え始めるようになった。多分それは、自分にはできないこと。が見えてきたからもある。

僕がコロナ禍に立ち上げたプロジェクト、アクターズコミックというYouTubeチャンネルがある。パンデミック禍での持続可能な舞台俳優の活躍の場と、草の根的なメディアミックスのあり方を探った映像作品だ。原作者の方に喜んでいただけた掛け替えのない経験や、コロナ禍でアーティストたちの雇用の機会を産むことができたこと、そして作品を楽しんでくれた人たちが居たこと、動画編集のスキルアップができたこと、事務作業に慣れたことなど、本当に立ち上げてよかったと思っている。そして僕はこの作品群が好きだし、宝物だ。

しかし、興行的には成功しなかった。人件費や経費の多くは助成金で賄えたものの、チャンネル登録者が1000人に達さなかったので私の手元には1円も到達しなかった。もちろん改善の余地もたくさんあるのだが、とにかく僕は収益を上げることが苦手だと気が付いた。ディレクションもできる、現場のプロデュースもできる。だが、プロモーターや経営者的な立ち位置には、今は就けないと感じた。しかも学ぶ意欲も薄め。とはいえ、各漫画のその後のヒットやドラマ化など、目の付け所の良さには我ながら驚いた。

初めて神奈川県出身が生きた気がする作品。でもたまに東京出身って言います。はい。

そしてダンス。
僕は4歳のころからジャズダンスを始めて、テーマパークやらミュージカルのダンサーになるものだとばかり思っていた。けれど、もしかしたら、自分への祈りのための踊りが好きなのであって、批評の場に提出したり、正確に踊りたいわけでは無いのかもしれないと気が付いてきた。
もちろん身体表現は大事なスキルなので、いつでも躰と技術を捧げるし、そもそも染み付いてしまっているが、多分「ダンサー」という道を歩むべきではないだろうなと。

祈りに近い踊り

2019年に製作した自主制作映画「クローゼットのお姫様」あたりから、演出を務めたり、脚本や詩を書くことが増え、自分が感覚的に大切にしている倫理観をよりロジカルに学びたい。身の回り・遠くで起きている様々な社会問題の知識や歴史を身につけたかった。大切な人たちを、自分を、傷つけるようなことをしたくない。そう強く願った。その頃から、小説だけではなく、社会学や歴史についての書を読むように。

渡英した理由は100あるが、そのうちの1つは「ちょっと、迷わせてください」だった。

芸能界で活動してゆくにはたくさんの努力と時間が必要だし、色んな事に手を出しがちだし、生きているだけでお金は減ってゆくので何故か働かないとならないし。しかしそろそろ、自分の人生の軸を決めたい。運に身を任せてえいや、と決めたくはないし、適量の孤独を手に入れて自分と向き合いたい。イギリスで観劇するときには、セリフよりも全体的な空気感やら表現にも目が向く。ちょっと(時に全然)英語が分からないというのもいっそ一つのアドバンテージだ。日本語は29年間も使ってきて「わかりすぎる」時がある。(日本語でも全然わからないときもある。あ、かっこが増えてきた。補足したいことたくさんありすぎる。でも僕の人生、ほぼ注釈と補足で構成されているようなものなので…このブログ自体、補足事項の塊のような見方もできるし……)

Young Vic の円形舞台
円形舞台ってだけでドキドキする。でもオペレーションは本当に難しい

その他にも数多の挫折や解釈違いをたくさん踏み越えて、僕の専門はなんなのだろう。と十二分に考えられている今日この頃。さみしさも孤独もうまくいかなさも、本当に今ここにいるべきなのか、そんな不安も全部ありつつ、それらを抱きしめて、良く寝て栄養のあるものを食べつつ悩もう。今日も。多分研究がしたいというよりは、学んでそれを自分の芝居だったり、演出だったり、創作に取り入れてかつ少しは生活できるようにしていきたい。そんな願いな気がする。

こんな迷路のような話をまだ読んでくれてるんですか。好きだ。そして、こんな話に付き合ってくれた奇特な一人、小林弘幸というロンドンの大学院に留学中の劇団「新宿公社」の主宰とパブに行って、今日もたくさんのおすすめの本を教えてもらった。既に積読があるから、いつ読めるか…と云ったら「積読は、あればあるほど良いから。あれは、精神世界の地図だから。積んでる事に価値がある」と返してくれた。好きだ。

小林さんに教えてもらって、これは人間と接する総ての人が抑えるべき見事な良書だと思ったのはオレリア・ミシェル「黒人と白人の世界史」、学んできたからこそ向き合えたなと思ったのは、ショーン・フェイの「トランスジェンダー問題」、孤独でも考え続けようと支えられるのはヴァージニア・ウルフ「自分だけの部屋」、今読んでいるのは、小川公代「ケアの倫理とエンパワメント」。同じ本を読んだ人を見つけるのって難しいので、もし読んで語らいたい方がいたらお話しさせてくださいね。

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