天羽の演劇業、最近静かなんですが、実はめっちゃ「Research and Development(通称R&D)」の真っただ中なので、そんな話を。
さかのぼること2025年1月、Foreign Affairsから、「ビデオ会議しない?」と連絡が来る。彼らはイギリスで翻訳家を育成するワークショップや、翻訳劇の公演を行っている劇団で、以前彼らがノンバイナリーやクィアで日本人ルーツの俳優を探していたときにオーディションを受けた。
なかなか思うように活動が進まない上に、VISAも切れそうだったので、思い出作りでもと参加し、「いろんなジャンルを渡り歩いて、とうとうイギリスまで来ちゃったんだけど、’I’m so lucky and talented(超幸運で才能ある)’から、どこでも何かしらの作品に出会えたんだよね」なんてほざいていたのが、役のイメージとあっていたと後に聞く。そう、舞台出演が決まった。
出演することになったのは、新進気鋭の翻訳家たちが、1年をかけて英語に翻訳した戯曲を、抜粋して上演するショーケース。4つの戯曲の中のひとつ、劇団フライングステージさんの「美女と野獣 Kiss Canges Everything?」のドラァグクイーン、グロリアを演じることになった。

逃走中のチンピラ、リュウジは、取り壊し予定のマンションの地下に身を潜めた。そこで出会ったのは、煌びやかな恰好で歌い踊るドラァグクイーン、グロリア。足を負傷したリュウジの命は、彼女の手に託された。
一つのキスは全てを変えるのだろうか?
フライングステージは、1992年に旗揚げされ、代表の関根信一さんを中心に日本のゲイの姿をリアルに描く作品を作り続けているオープンリーゲイの劇団(12月末に新作公演「贋作・真面目が肝心」を上演)で、この作品は豊島区主催第8回池袋演劇祭審査会特別賞を受賞した二人芝居。当時グロリアは、脚本・演出の関根さん本人によって演じられた。
本番前日の興奮はこのブログに綴った。当日は、とにかく観客の反応が良く、笑いや、緊張が肌に刺さってくるようで、役者冥利に尽きた。終演後も「あなたはどこに埋まっていた宝石なの」と聞かれちゃって、いやーこの一年レストランに埋まってましたけどね。なんて。

翻訳をしたGareth(ガレス)と意気投合し、これまたやらない?!と、盛り上がり、私はこの作品の共同プロヂューサーになった。彼はオペラやミュージカルの劇作家で、大和日英基金に選ばれ日本で学び、ネルケの舞台『RAMAtical Murder』の字幕制作などに関わっていた犬好き。
イギリスの演劇界は「Research and Development(通称R&D)」と呼ばれる研究と開発を繰り返す仕組みがある。例えば、俳優やドラマトゥルギーとワークショップを開催したり、歴史研究や調査を行ったり、ショーケースやスクラッチナイトと呼ばれる実験の場で発表をして、プロデューサーや観客から意見を貰ったり。そんなこんなを積み重ねて、資金が集まれば、ようやくフル尺での朗読公演をやってみようか!となる(もちろん資産があればR&Dを飛ばして本公演をすることも)
一つの作品とじっくり向き合うことができる一方、「本公演」を打つのに何年も掛かるのはざらにあるので、時代性のあるものは難しかったり、モチベーションを保つのが難しかったり、予算が尽きたり。日本の小劇場の仕組みを話すと「どんどん自分の新作公演を劇場で出来るなんて羨ましい」と言われることもある。
しかし、アイデアがあって、劇場やイベントに選ばれれば、「朝に稽古して、夜のスクラッチナイトに出て、フィードバック貰おう」なんて、限りなく経済・時間的なリスクが少ない状況で作品を試せる環境で、ついつい「プロの俳優なんでしょ!」とか「なにがあっても初日は開けなきゃ!」なんて思っちゃいがちだけど、あくまで「from scratch(ゼロから)」試す場所。クォリティがまちまちなのも醍醐味。

4月には、劇団フライングステージの関根さんとお話しする機会があり、イギリスでの公演を目指す太鼓畔を押してもらう。ほとんどの演劇プロデューサーは上演権を取るのに四苦八苦するものなので、協力的な姿勢に感謝してもしきれない。そして、SOHOに位置するUnderbelly Bourlevardという劇場にて、2度目の抜粋公演を行い、A Young(ish) Perspectiveという演劇レビューサイトより星四つの高評価を獲得。
並行してドラァグクイーンを演じるためのリサーチと称してドラァグパフォーマンスを学んだり、各劇場やファンディングに企画を持ち込む日々で、来年にはもう一歩進んだ進捗があるかも…?(ほんとにまだわかってない)
イギリスには、LGBTQ+のコミュニティーを祝福するKing’s Head Theatreや、東アジア・東南アジアのLGBTQ+の映画やライブパフォーマンスのフェスティバルを行うQueer East、エビータやサンセット大通りの演出でその名をほしいままにする演出家Jamie Lloydはパートナーとイチャイチャする写真ばかりインスタに載せているし、トランス差別主義者のJKローリングやイーロンマスクに抗うかのように、クィアコミュニティを支え、祝福し、発展させる強い力が存在する。
ロンドンで「1992年に旗揚げされたオープンリーゲイの劇団フライングステージ」と、紹介するたびに「なんて先進的なんだ」と驚かれる。そして、果たして今日本の演劇界はLGBTQ+をサポート・祝福しているだろうか?と思うと、いや、疑問が残る。ただ、小沢道成さん脚本・演出・美術のEPOCH MAN新作公演『The Closet Revue』では「男性として社会に生きながら、華やかな装いとパフォーマンスで自己を表現する人物たちを描く」そうだし、篠井英介さんがブランチを演じる「欲望という名の電車」の再演、いいへんじ『われわれなりのロマンティック』など、個性的なクィア演劇作品がたくさんあるので、観客や作家たちだけでなく、劇場や制作会社、文化庁、スポンサーといった方々にも、どうやったらよりクリエイティブに包括的に創作ができるか考え、取り組んで欲しい。

僕は僕でこの作品を、日本のクィアシーンを、どうやって現代の観客に届けるか、同じくノンバイナリーのGarethと試行錯誤し続けている。LGBTQ+の権利を評価するヨーロッパ内のランキングが、2015年の1位から2025年には22位に墜落したUKを見てきた彼は、同性愛嫌悪やヘイトクライム(人種や性別、信仰などの特徴に基づいて行う犯罪や差別)を扱ったこの作品が、悲しいことに、今の英国人にも響くかもしれないと指摘している。また、クィアな作品・日本の作品、どちらもあるが、イギリスでその二つが混ざり合うことは稀であり、新たなコミュニティにスポットを当てられたらと奮闘中。
周りまわって、日本でも公演ができたらなんて思いを馳せつつ、自分で言った通りこの作品と巡り合えたことは、本当にラッキーだなと思う。その幸運よ、ウエストエンドまで連れてっておくれ!
