効率化で僕の首が切られそうな話

黄色いメニューに黒のマーカーでバーで働く天羽の姿がえがかれている

効率という言葉は好き。身体は一つだし、時間は有限だし、貧乏暇なしなので、どうにか日常を効率化させようと、お恥ずかしながらライフハックと呼ばれるものをいくつか実践していたりする。でも弊社にとっては僕自身が「効率的」じゃないっぽい。

ロンドンのレストランで働き始めてから1年半になる。早くガラスの靴で闊歩したいのだけど、まだ演劇の王子様のお迎えは来ない。とはいえ、日々競争な演劇と違って、レストランのバイトは「求められることは出来る。しかも、結構良く出来る。だってボスに時給上げてもらったし、なんならちょっとおばさんになってるし」と、自信を持って働けるので、何とか続けられている。

そんなレストランも、徐々に変化し、カクテルの素が工場から送られてくるようになり、支払いはQRコードになり、負担が減ったぞ~と喜ぶも束の間、注文から支払いまですべてスマホで行うアプリが導入された。そう、演劇の片手間に働く奴なんて、もういらないのだ。シンデレラ、王子を待っている間にお家を追い出されたらどうなっちゃうのー?!の巻。

スーパーやコンビニ、ファストフード店は、ほぼセルフレジや注文システムが導入されているし、毎年上がる時給は労働者にとっては助かるが、企業にとっては足かせだ。分かるもん。人件費考えなくて良いなら、アンサンブルが無限に出てくるミュージカル作ってるもん。

システムが発展途上なこともあって、常連さんはイライラするし、店長やウエイターたちからも不満続出、しかも運営側は「お客さんとコミュニケーション取ることを忘れずに☆アップセールス☆」と抜かしやがるので、こりゃイギリス名物のストに加われるかなと楽しみである一方、「効率化」ってこういうことだよな。としみじみしている。イーロン・マスクに解雇された米政府の職員の気持ちが微塵だけ分かるよ。きっと。

僕が今までした接客だって、どれもが売り上げに結びついている訳でもないし、観光客の多いロンドンでリピーターがどれほど見込めるのかなんて不明。何度も傷ついたり喧嘩したりもしたけど、どうにか自分ができるサービスを、自分のやり方で提供できる自由は、小さいけど大事な働きがいでもあったなと思う。そして、真っ先に削られるのが末端の労働者で、働くにしろ、辞めるにしろ、白人中年イギリス人男性の懐を守るための道具なんだなーと思うと、あれ、やっぱり、労働ってクソですか?(割と働くの好きなのに!)

正直言えば、真面目に1年半働いているので、すぐに僕が首になることはないんだろうけど、学校に通っている間や、語学がままならない時にもできる仕事が少なくなるかもしれないという不安はある。しかし、歴史をみれば、形を変えずに残っている仕事のほうが少ないくらいだし、介護や公共サービスにも目を向けて自分の副業を考える良い機会かもしれない。

全然便利でも効率的でもない舞台は、そうだと自覚した上で真向に時代に逆らってゆけば、それだけで面白いかも。ロンドンでも日本でも景気の良い話を聞かないし、お金儲けには向いてないのに、観客は高いチケットを払わなきゃいけないなんて、超が付く不条理劇。ボロボロのドレスのまま舞踏会に繰り出して、ノブリスオブリージュを掲げよう。

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