日本に居る時は、かなり下駄をはかせてもらっていた。自己紹介では「仮面ライダーシリーズってご存じですか?日曜の朝にやっている…そうなんです。そちらで悪役を演じたり、ドラマの相棒ってご存じですか?」と、謙虚なフリをした導入をすれば「名前は知らないけど一応プロの俳優なんだ」と思ってもらえることが多い。演劇を知っている人なら「弱虫ペダル」「ホリプロのピーターパン」「ブス会*」などの切り札がある。
しかし、ここはイギリス。僕の経歴を伝える為には、作品名や役名だけじゃなく、何故選ばれて、どんなことをして、何が今の経歴に繋がり、何故このポジションに相応しいのか、説明しなければならない。しかも業界も肩書も漂ってきたので、首尾一貫していないように見えるのだ。
うろ覚えのキャリア初期から、最近過ぎて客観視できないものまで、記憶とデータを漁るうちに、「ええ仕事しとる。」と感心したし、表面上は繋がってないように見えても、色んな糸で自分の経歴を縫い合わせることが出来るなと気が付いた。
僕の演劇デビュー作、世田谷文学館主催「ガラスの仮面第二期生」で演じたのは、開演するや否や上裸になり、ブラジャーを付け始める女装少年。少年社中「贋作・好色一代男」での妖艶な稚児・菊丸、「モブサイコ100」の魔津尾、現在ロンドンでプロデュース中の劇団フライングステージさん原作「美女と野獣」のドラァグクィーン・グロリア役と、18年もクィアキャラクターを演じ続けているレインボーな糸。
高校の頃に自主製作をした「Cicatrice」では、職業差別に苦しむ死刑執行人と、女性の連携、同性愛。今となってはイマーシブシアターと呼べるだろう「追風バルカロール」は劇場空間を船内に見立てた18世紀の移民ラブストーリー、ロリイタ服のプライドを精神に纏うと決めた女性を描く自主製作映画「クローゼットのお姫様」からの、有害な男性性に藻搔く男たちを描いた「NOW LOADING」と、「マイノリティに光を当てた社会派ミュージカル(でもエンタメな演出)」しか作ってないことが証明される思ったよりも太かった糸。
最悪だったオーディションをまとめる糸、求められたことを確実にこなした仕事人な糸、今思えば、もちょっとできたんじゃないかの糸。「この4作品に来てくれたこの人は、こんな分析をしてくれた」という祭縫い、「初観劇の寿司職人を呼んだら花束を抱えて号泣してた」という安全ピン、「こんなお手紙を貰った」という実存する束もある。
観に来てくれたり、関わった人たちそれぞれの糸があるだろうから、僕もしらない縫い目があるのだろう。Twitterは辞めたけど、お世話になった西田シャトナーさんにどんな声を掛けてもらってきたかなと、「天羽 from:Nshatner」で検索をしたら涙が出そうになった。これはシャトナーさんからのギャザー。
ついついキャリアばかり目を向けてしまうけど、保健室、心療内科、カウンセリングを通ったからこそ切れてない糸だったり、血涙を流して節約したから長さがギリ足りた糸だったり、ロンドンに来てもこうやってブログを書いてるからこそ、誰かの記憶の中で僕の糸が途切れてない。みたいな糸もあるかもしれない。
これまでの人生「これから」ばっかり意識して生きてきたけど、31年間色んなところで色んなことしてきたわけだし、偶にはこうやって過去を振り返って、自分の頑張りを愛して、選ばれなかった時にちゃんと自分側に立つこととか、「相手のセンスかタイミングだなー次はこの縫い目で勝負するか」と、策を練ったり、「あれ、ここの部分、まだ全然世間が評価してないじゃん!売り出していこ!」と、ブーストかけることによって、仕事が一番楽しいと噂の30代40代をノッていきたい今日この頃。
そういえば、小沢道成さんがロンドンで「Our Cosmic Dust」を上演していて(素晴らしかった!)、日本からクリエイティブチームが参加したり、たくさんの俳優が応援しに来たりしてて、人望…ってなった。もうね。2年くらいいるのにね、まだね。誰もロンドンに来てくれてない。さみしい。いいもん。こっちにも友達いるもん。と、すぐに糸をこんがらがせようとしたけど、小沢さんのお陰で久しぶりに再会できたプロデューサーの半田桃子さんをフィッシュアンドチップスに連れてくことが出来て、在英人の務めの赤と青と白の糸が通った。
来るときは教えてね!電子化されてない本と、日焼け止めクリームと、日本でしか手に入らない食材を持ってきて欲し…